デンタルニュース

吸わなければ大丈夫?喫煙とインプラントの関係

日本橋の歯医者「日本橋グリーン歯科」デンタルニュース担当スタッフ、歯科衛生士の平野です。

インプラント治療を考える際に、「タバコはもうやめているから大丈夫かな」と思われる方も多いのではないでしょうか。実際、診療の中でもそのような声をよく耳にします。

禁煙はインプラントにとって大切なポイントのひとつですが、今は吸っていなくても過去の喫煙習慣や加熱式・電子タバコの影響が、歯ぐきの状態にゆっくりと表れていることがあります。

ご本人には気づきにくい変化でも、治り方や歯ぐきの反応に違いが見られることがあるため、日常の習慣を一緒に確認していくことが大切です。

この記事では喫煙とインプラントの関係について、治療前後で気をつけたいことや、無理なく向き合っていくための考え方をまとめました。

これからインプラント治療を検討されている方にも、すでに治療を終えられている方も、ぜひ参考にしてみてください。

たばこを吸う男性

喫煙はインプラントにどんな影響がある?

 

①タバコが治りを遅らせる理由

血流が悪くなり歯ぐきが治りにくくなる

タバコに含まれるニコチンには血管を収縮させる作用があり、歯ぐきや骨への血流が悪くなりやすくなります。

インプラント治療では、手術後に歯ぐきや骨がしっかり治ることがとても大切ですが、血流が不足するとその回復がゆっくりになります。
歯科衛生士としてメンテナンスに関わっていると、喫煙習慣がある方は、同じ時期に治療を受けた方と比べて歯ぐきの落ち着きに時間がかかる印象があります。

体の内側で起きている変化が影響していると感じます。

免疫力が下がり炎症が起きやすくなる

喫煙は免疫の働きにも影響し、細菌に対する抵抗力が下がりやすくなります。

その結果、インプラントの周りで炎症が起きやすくなり、気づかないうちに状態が進んでしまうこともあります。

特にインプラントは、炎症があっても強い痛みが出にくいことが多いため、「自覚症状がない=問題ない」と思ってしまいやすい点も注意が必要です。

実際の診療でも、腫れや出血が少なくわかりにくいまま進んでいた、という方を診ることがあり、日頃の習慣が静かに影響していることを感じます。

②天然歯とインプラントで違いはある?

インプラントは炎症に気づきにくい

天然歯には歯根膜というクッションのような組織があり、違和感や噛んだときの感覚でトラブルに気づきやすい特徴があります。

一方、インプラントにはその構造がないため、炎症が起きても違和感を覚えにくいことがあります。
喫煙によって歯ぐきの色や出血の反応が鈍くなると、見た目でも変化に気づきにくくなり、「気づいたときには進んでいた」という状況につながりやすくなります。

進行が早くなりやすい理由

インプラントの周りで炎症が起きると、歯ぐきだけでなく骨にも影響が及びやすいとされています。

そこに喫煙による血流低下や免疫の影響が重なると、状態が一気に進んでしまうことがあります。

私自身、定期的に通っていた方でも、喫煙量が増えた時期に歯ぐきの状態が変わったことをきっかけに生活習慣の話をするようになった経験があります。

インプラントは毎日の積み重ねが結果に表れやすい治療だと実感しています。

インプラントのイメージ

「今は吸っていない」だけでは足りない理由

①過去の喫煙歴も影響することがある

長年の喫煙で残る歯ぐきや骨への影響

「もうタバコはやめているから大丈夫ですよね?」という質問は、診療の中でもとてもよく聞きます。

もちろん、禁煙していること自体はインプラントにとって大きなプラスです。

ただ、長年の喫煙習慣があった場合、歯ぐきや骨の状態にその影響が残っていることもあります。

歯科衛生士としてお口の中を見ていると、見た目は落ち着いていても、歯ぐきの厚みや血色が回復しきっていないと感じる方もいます。

これはすぐに問題になるわけではありませんが、治療を進めるうえでは知っておきたいポイントのひとつです。

本数や年数が関係することも

過去にどれくらいの本数をどれくらいの期間吸っていたかによって、体への影響の残り方には個人差があります。

「若いころに少しだけ」「何十年も吸っていた」など背景はさまざまです。

私自身、喫煙歴のある方には、インプラントを安定した状態で長く使ってもらうために治療のスピードを少しゆっくりにしたり、メンテナンスの間隔を短めに設定したりすることがあります。

②加熱式・電子タバコなら大丈夫?

ニコチンの影響は変わらない

最近は加熱式タバコや電子タバコに切り替えている方も増えています。

「煙が少ないから安心」「紙巻きよりは体にやさしいのでは」と思われがちですが、ニコチンが含まれている場合、歯ぐきや血流への影響は完全になくなるわけではありません。

実際にメンテナンスの場面でも、加熱式に変えたあとも歯ぐきの反応が落ち着かず、生活習慣をもう一度一緒に見直したことがあります。

形が変わっても、体への影響が続くことがある点は知っておいてほしいところです。

歯ぐきの回復への影響

インプラント治療では、歯ぐきが健康な状態を保てるかどうかがとても重要です。

ニコチンの影響が続くと、歯ぐきの回復がゆっくりになり、ちょっとした刺激で不安定になりやすくなることがあります。

「吸っていないつもりでも、実は影響が残っていた」という方も少なくありません。

だからこそ、「今どうしているか」だけでなく、「これからどう付き合っていくか」を一緒に考えていくことが大切だと、日々感じています。

加熱式たばこ

インプラント治療前・治療後で気をつけたいこと

①治療前に知っておきたいポイント

禁煙期間の目安

インプラント治療を考える際、「いつから禁煙すればいいの?」と聞かれることがよくあります。

理想的なのは、手術の前からある程度の期間、タバコを控えた状態をつくっておくことです。

これは歯ぐきや骨の血流を少しずつ回復させ、治療後の治りを助けるためです。

「いきなり完全にやめるのは難しい」という声も多く聞きます。

その場合でも、量を減らしたり、吸う回数を意識的に減らしたりするだけでも、体の反応が変わってくる方もいます。

無理なく続けられる形を一緒に考えていくことが大切です。

喫煙状況を正直に伝える大切さ

治療を安全に進めるためには、現在の喫煙状況や過去の喫煙歴を正直に伝えてもらうことがとても大切です。

遠慮して伝えなかったり、「もう関係ないかな」と思って省いてしまうと、治療計画や術後のケアに影響することがあります。

実際の診療でも事前にしっかり状況を共有してもらえた方ほど、治療後のフォローがスムーズに進み、安心して通院されている印象があります。

責められることはありませんので、気になることはそのまま伝えてもらえると助かります。

②治療後も注意が必要な理由

インプラント周囲炎につながりやすくなる

インプラント治療が終わったあとも、喫煙の影響は続きます。

タバコによって歯ぐきの血流が悪くなると、インプラントの周りに汚れがたまりやすくなり、炎症が起きやすい状態になります。

メンテナンスの中でとても多いのが、「本数も減らしたし、少しなら大丈夫ですよね?」という相談です。

気持ちはとてもよく分かりますし、完全にゼロにすることが難しい方も少なくありません。

ただ、歯科衛生士として日々お口の中を見ていると、少量であっても喫煙の影響が歯ぐきの反応に出ていると感じることがあります。

本人は特に違和感がなくても、歯ぐきの引き締まりや色の変化から「あ、少し負担がかかっているな」と気づく場面もあります。

そうした小さな変化を一緒に確認しながら話をすることが、治療後の安心につながっていると感じます。

メンテナンス間隔の考え方

喫煙習慣がある方や、過去に長く吸っていた方の場合、メンテナンスの間隔を少し短めに設定することがあります。

これはトラブルを防ぐためというより、「安心して使い続けるための確認の時間」と考えてもらえるとよいと思います。

実際にこまめに通ってくださっている方は、小さな変化の段階で対応できるため、大きな問題につながりにくい傾向があります。

インプラントは治療が終わってからが本当のスタートだと日々感じています。

禁煙できない方へ、現実的な向き合い方

どうしても禁煙が難しい方に対して、「やめないとダメです」と一方的に伝えることは、現実的ではないと感じています。

大切なのは、できる範囲でどう付き合っていくかを一緒に考えることです。

実際に、喫煙量を減らすことで、歯ぐきの状態が落ち着いてきた方もいます。

無理なく続けられる方法を探しながら、メンテナンスを通して状態を確認していくことで、インプラントを安定した状態で使い続けている方をたくさん見てきました。

インプラントのある口腔内のイメージ

まとめ

喫煙とインプラントの関係は、「吸っているか・吸っていないか」だけで単純に判断できるものではありません。

過去の喫煙歴や現在の習慣、そして治療後のケアの積み重ねが、インプラントの状態に少しずつ影響していきます。

私が日々歯科衛生士として感じるのは、完璧を目指すよりも、現実的に続けられる選択を重ねていく方が、結果的にインプラントが安定しているということです。

禁煙できている方はその状態を維持すること、難しい方は量や頻度を見直しながら、定期的なメンテナンスで状態を確認していくことが大切です。

インプラントは治療が終わったあとも、日々の生活と一緒に育てていくものだと感じています。

無理をせず、できることを少しずつ続けていくことが、インプラントを長く快適に使うための近道です。

この記事を監修した人

医療法人社団周優会 常務理事 笠原幸雄

医療法人社団周優会
常務理事 笠原幸雄

所属学会

東京シティー日本橋ロータリークラブ会員
お江戸日本橋歯科医師会選挙委員会 委員長
一般社団法人 日本橋倶楽部会員
東京科学大学歯学部 東京同窓会参与

略歴

私立開成高校卒業
早稲田大学理学部卒業
東京医科歯科大学歯学部卒業
東京医科歯科大学病院勤務
笠原歯科医院 蔵前開設
医療法人社団寿幸会 笠原歯科医院 人形町開設
医療法人社団周優会 日本橋グリーン歯科 常務理事
医療法人社団寿幸会 笠原歯科医院 六本木開設