デンタルニュース
オーラルフレイルとは?予防法も解説!
日本橋の歯医者「日本橋グリーン歯科」デンタルニュース担当、歯科衛生士の平野です。
「最近、食事中によくむせる」「滑舌が悪くなってきた気がする」
そのような些細な変化は、もしかすると「オーラルフレイル」の症状かもしれません。
オーラルフレイルとは、加齢や生活習慣によりお口の機能が徐々に衰えていくことを言い、放置すると全身のフレイル(虚弱)や要介護状態につながるリスクもあります。
私は歯科衛生士として日々多くの高齢患者さんと接する中で、オーラルフレイルの初期の症状を見逃さず、予防・改善に取り組むことの大切さを強く感じています。
この記事では、オーラルフレイルの基礎知識と予防法、体操や食事の工夫まで、具体的に解説します。
オーラルフレイルとは?
①そもそも「フレイル」とは何か
「フレイル」とは、加齢に伴って心身の機能が衰え、健康な状態と要介護状態の中間にいるような状態のことを言います。具体的には筋力の低下、疲れやすさ、活動量の減少、体重の減少などが見られます。
身体的フレイルとの違いとは
身体的フレイルは歩く速度の低下や転倒リスクの増加など、外からもわかりやすい変化が特徴です。一方でオーラルフレイルは、食事中の食べこぼしや滑舌の悪化など、気づきにくく見逃されやすい症状から始まります。
私が歯科衛生士として現場で感じるのは、こうした変化が目に見える前に「口の機能の低下」が始まっているということです。だからこそ、歯医者での早期発見が重要です。
フレイルの進行がもたらす影響
フレイルが進行すると、日常生活の自立が困難になり、要介護状態へと移行するリスクが高まります。特にお口の機能の低下は、栄養不良や社会的孤立を引き起こしやすく、心身の健康の悪循環になってしまいます。
②「オーラルフレイル」の特徴
オーラルフレイルとは、加齢により口の機能(噛む・飲み込む・話すなど)が衰えていく初期段階の状態のことを言います。決して病気ではありませんが、放置すれば要介護や寝たきりへの入り口になりかねません。
「お口のささいな衰え」が危険な理由
「最近、滑舌が悪くなった」「食事中にむせやすくなった」「硬いものが食べにくくなった」
などの訴えは軽く見られがちですが、オーラルフレイルの初期症状かもしれません。
私の患者さんの中にも「昔は好物だったせんべいが食べられなくなった」と言ったことが、フレイル進行のきっかけで気づかれた方もいます。
加齢による自然な変化との違い
加齢によって誰しも筋力は落ちますが、オーラルフレイルは予防できる衰えです。
早期に気づき適切な対応を取ることで、進行を遅らせたり元に戻すことも可能です。
③なぜオーラルフレイルが注目されているのか
8020運動とのつながり
「80歳で20本以上の歯を残す」ことを目指す8020運動は、オーラルフレイル予防にも直結します。自分の歯が多く残っていると噛む力があるので、生活する上で食事や会話の楽しみもあります。
健康寿命との関係
口の健康は単に食べるためだけでなく、会話を楽しみ、社会とのつながりを維持するためにも欠かせません。
お口の機能が保たれている人は、健康寿命が長い傾向にあると言われています。
④放置するとどうなる?健康への影響
食事がしにくくなる
噛む力や飲み込む力が低下すると、食事が億劫になり、栄養バランスが崩れがちになります。特に高齢者は栄養が少ないと筋肉量が減ってしまい、さらにフレイルを加速させます。
会話が減ることで社会的孤立
口が動きにくくなることで話すことが減り、人との交流を避けるようになります。これが孤独感や抑うつ、認知症のリスクを高めることにもつながります。
要介護状態に近づく
「食べられない、話せない、笑えない」そんな状態が続くと、生活全体の質が落ち、要介護状態に近づいていきます。お口の機能低下が全身の衰えの引き金になってしまうのです。
口の衰えを防ぐ3つのポイント
①毎日のセルフチェックと早期発見
オーラルフレイルのチェックリスト
オーラルフレイルにはチェックリストがあります。こちらは日本歯科医師会によるチェックリストです。
- 半年前と比べて、堅い物が食べにくくなった
- お茶や汁物でむせることがある
- 義歯を入れている ※(使用の有無を問う)
- 口の渇きが気になる
- 半年前と比べて、外出が少なくなった
- さきイカ・たくあんくらいの堅さの食べ物を噛むことができる
- 1日に2回以上、歯を磨く
- 1年に1回以上、歯医者に行く
この8項目の簡易チェックリストを月に一度でも確認するだけで、変化に気づきやすくなります。
家族が気づきやすい生活面の変化
「最近食べこぼしが増えた」「話し方が変わった」「声が小さくなった」など、家族だからこそ気づける変化があります。家族の方に日々の会話や食事中の様子を聞いてみるのも一つの手です。
歯科受診の目安
「食事でむせることが増えた」「舌の動きが悪いと感じる」「入れ歯が合わない」といった場合は歯医者を受診し、お口の機能を評価してもらいましょう。
②お口の機能を鍛える体操・トレーニング
「パ・タ・カ・ラ」体操のやり方
歯科ではパタカラ体操というものがあり、「パ・タ・カ・ラ」と発音することで、唇、舌、のどの筋肉を効果的に鍛えることができます。
1日2〜3回、各10回ずつゆっくり行うのがポイントです。パタカラ体操や舌の体操などは、テレビを見ながらでもできます。1日1分からでも続けることで、ゆくゆく大きな違いが生まれます。
舌・唇の筋トレで滑舌も改善
舌を左右に動かしたり、口を大きく開けたりすぼめたりする運動を取り入れることで、滑舌や発音が改善します。
嚥下機能を高める「ごっくんトレーニング」
唾液を意識的に飲み込むトレーニングや、首を軽く前に傾けての嚥下練習などで、誤嚥を防ぐ効果が期待できます。
③食事と生活習慣の見直し
よく噛むことが大切な理由
噛むことは消化を助けるだけでなく、脳への刺激となり、認知機能の維持にもつながります。1口30回を目安に、よく噛む習慣をつけましょう。
口腔乾燥を防ぐ水分補給と食材選び
歳を重ねると口が乾きやすくなるため、水分補給と一緒に、果物や柔らかい根菜を取り入れると良いです。ドライマウスの予防にもなります。
食事の姿勢や環境も見直すポイント
椅子に深く腰掛け、テーブルと身体の距離を適切に保つことも嚥下障害の予防に効果的です。テレビを見ながらの「ながら食べ」はNGです。
高齢者のために家族ができること
①高齢者の歯科受診
歯科受診を嫌がる場合の声掛けと工夫
高齢者が歯科受診を避ける場合、①痛みの記憶、②何をされるかわからない不安、③自分はまだ大丈夫という思い込み、という理由があります。
「最近、食べにくそうにしてるけど大丈夫?」といった優しい声かけから始めましょう。「ついでに行こうか」と付き添うことで安心感を与えられます。
口腔ケアが転倒・認知症リスクを左右する
歯周病や嚥下障害は、全身の炎症リスクや低栄養に直結します。それがフレイルや転倒、認知症の引き金になることもあるのです。
②日常会話と観察が予防になる
「会話量の減少」は初期の症状
会話が減るのは単なる気分の問題だけでなく、口の機能低下が原因のこともあります。話すことに億劫さを感じているのかもしれません。
発音・咀嚼音の違和感に注目する
「サ行」が聞き取りにくくなった、「クチャクチャ」と食べる音が目立つようになったなど、小さな変化を見逃さないことが予防の第一歩です。
まとめ
オーラルフレイルは、放置すれば全身のフレイルに直結するリスクを持っていますが、初期の段階で気づき対処することで、進行を食い止めることができます。
オーラルフレイルの予防は、高齢者だけでなく40代、50代からでも遅くありません。むしろ早く始めるほど効果的です。
しっかり噛んで、話して、笑えることは生活の質を保ち、心身の健康に直結しています。だからこそオーラルフレイルは軽く見てはいけません。
歯科衛生士として、私は「よくしゃべる」「よく噛む」「よく笑う」生活習慣が最大の予防であると、日々実感しています。
今日からでもできる小さな習慣を積み重ねて、「いつまでも美味しく食べられる」「楽しく会話できる」未来を守っていきましょう。